医療現場の最前線で働く【臨床工学技士】からの報告~コロナ対策ニーズソン 6~
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医療現場の最前線で働く【臨床工学技士】からの報告~コロナ対策ニーズソン 6~

当院は3次救急の指定病院ですが、感染症の指定病院ではありません。私自身は臨床工学技士で、専門としては救急救命と集中治療、DMATです。ダイヤモンドプリンセス号でのコロナ患者さんの搬送や船内活動も行っていました。現在は重症コロナ患者さんの呼吸器、ECMO、透析などを担当しています。

PPEに対して思うこと

当院の感染対策として使用しているPPEは、首回りのガードが甘いガウンを使用しているため、誰か首回りがしっかりしたものを作ってくれないかなと、皆が考えています。
私は個人的に、首回りを本当にガードしたいときは、高齢者の使い捨てのビニール製のエプロンを付けてその上にガウンを着ています。しかしこれも無くなりつつあるので、また別のものを首に巻くなどして、最近はどうにかしのいでいます。

 

ここ数日のうちに、N95マスクは、1人に5枚配布して1日1枚を使用、72時間でコロナは死滅するはずなので4日前のモノを使えば大丈夫、という運用が始まります。しかし現実的にはいろいろなもので汚染されるので、N95マスクの上に撥水性のあるサージカルマスクを重ねています。これも医療者の「ニーズ」になりますが、N95マスクを守るマスクがあれば医療現場でのニーズがあると思います。

多くの人に知ってほしい、医療者の「心」

最近、医療崩壊という言葉がメディアにも多用されています。安定的で継続的な医療提供体制が成り立たなくなる=医療崩壊につながりますが、では今はどうか?というよく分からない議論がなされています。恐らく、どれだけ人員が減ろうとも、医療が崩壊しないように身を粉にして働いている医療者は、全国にものすごい数がいると思います。私は日本の外での災害医療も仕事としていますのでそういう現場も見ますが、中には本当にNs一人で何十人も患者さんを相手にしていることもあり。それが医療崩壊かというと、その人にとっては「私たちは崩壊していない」と答えるかもしれませんし、これは受け取り方次第でしょう。

医療を支えるものは、ヒト、モノ、カネ、そして志です。その人が思い描いている医療、自分の職業に対する思いもあります。では医療を支えているヒト・モノ・カネ・志に対して何が起きているのか。まずは「個人防護具の不足」「人工呼吸器の不足」です。病院は定時の手術を全部ストップした、売上が下がる、じゃあ次のボーナスは?こんなに働いているのに収入が下がる?と、医療者は考えています。自分が思い描いて入ってきた志と、実際の医療現場でのギャップが生じているのです。

 

私たちは働きながら、自分が感染して死んでしまうのではないかというリスクがあります。自分がかかって仲間や家族に感染させるのではないかという恐怖、個人防護具の数が足りないという話、納品されるはずのものが納品されない、理想と現実のギャップなどが重くのしかかってきています。
私自身はダイヤモンドプエリンセス号に泊まりで行って思いましたが、やはり家に帰って自分の子供に感染させたらどうしようか、これは非常に強く思いました。子供をもつ親である医療従事者は、皆が思っていると思います。実際に中国の武漢で働いていた医療従事者の約半数が、PTSDやそれに近い心の傷があったという論文もあります。医療従事者の心のリスクが大きな爪痕になりかねない、それは大きな問題だと思います。

当院でのPPEの現状

私は、コロナ陽性の重症患者さんはともかく、コロナ疑いだけどPCR検査が何度やっても陰性の人でコロナ対応をすべき患者さんを怖いと思います。画像診断や症状からはどうみてもコロナにしか思えない人は、結構な数がいます。当院でコロナ患者またはコロナ扱い患者の約半数が、これに近い患者さんです。
コロナ未確定や、コロナを疑っていなかった肺炎や心不全患者さんに対し、救急外来ではどこまでガードを上げるか、自分の身を守って診療するかが話題になっています。

当院を含む一般病院では、個人防護具の備蓄はもともとありません。災害医療用に一部あっただけでしたので、ふんだんに準備できる病院もあれば、当院のように「背中がら空きで患者さんを取り囲む」というのが現実です。

当院を含む一般病院では、個人防護具の備蓄はもともとありません。災害医療用に一部あっただけでしたので、ふんだんに準備できる病院もあれば、当院のように「背中がら空きで患者さんを取り囲む」というのが現実です。

海外に比べて明らかに軽装備ですし、感染リスクは高いです。また、PPEは着方よりも脱ぎ方が重要で、脱ぐときはすごくプレッシャーですし、もしかして自分の手技を間違えたら、服や肘、顔などにウイルスが付着する、そういう不安を抱えながら脱いでいます。

また、救急や新規入院でくる患者さんは、コロナかどうか分かりません。例えばマスク型のNPPVといわれる人工呼吸器はSARSの時、一人の患者さんが周りにまき散らしたリスクは8倍という論文も出ました。つまりマスク型の人工呼吸器を使うと、周りにどんどん感染します。もちろん自分もです。ですからコロナを疑っていない患者さんにPPEを使うことは日常的にありますが、自分たちの疑いが甘くて結果的にコロナだったということも、現実的に全国では起きています。

医療者への感染と、コロナハラスメントの現実

中国の話ですが、2011年のSARSのとき、8000人あまりの患者さんのうち、20%が医療従事者でした。コロナに関しても、中国でもそのぐらいの割合で医療従事者の感染率が高いです。これは医療者の手技が未熟なわけではなく、眼に見えないものをどこまで対応できるかは限界がありますし、一人が感染して横に広がることもあります。私たちにプレッシャーとなるのが、医療従事者の死亡という報道です。これは国外からは絶えません。NYでは100人以上が亡くなっている、それを見聞きするだけでも辛いと思います。

家に帰った時、もしかすると自分の体にコロナが付いているかもしれないと思って玄関の内側に入るだけでもプレッシャーですし、自分の子供への感染を考えるのもプレッシャーです。恐らく多くの医療従事者が、病院を出る前に病院でシャワーを浴びて更衣をしてから帰る、ということにもなるでしょう。それから、医療者がばい菌扱いされる「コロナハラスメント」も現実に起きています。知人の子供は保育園から「来るな」といわれる、これも本当に起きています。

病院でもマンパワーの不足はあちこちで起きています。濃厚接触者となって自宅待機のスタッフは当院でも数人いますし、明らかにコロナっぽい症状が出ているスタッフも時々います。PCRでは陰性でもやはり自宅待機です。コロナ有症状のスタッフとの接触があれば、これも濃厚接触扱いで2週間の自宅待機です。残念ながら、マンパワーが不足しても入院患者さんが減るわけではないので、それもプレッシャーです。

使命感なのか身の安全なのか。コロナ重症患者さんの急変やトラブル発生時、部屋の外にいると急いで入室ができません。例えば、目の前でガラス越しに呼吸器のアラームが鳴っているのに誰もすぐには入れないとき、最低限のPPEを付けて入るのか、患者さん優先で何もせずに入るのか。その選択を迫られますが、やはり医療者の身の安全も大事ですから、すぐにはかけつけられない現実もあり、これもストレスです。

私たちは、職業倫理と、自分の身を守るために働かないのかというと、今は職業倫理が勝っています。でもこれがいつまで続くか分かりません。自分の感染リスクが上がるという恐怖が増えていくと、おそらく天秤は逆に傾くでしょう。この天秤はきしみやすいですから、天秤自体が壊れるかもしれません。恐らく今後は「働きたくない」スタッフも出てくるでしょう。

大きなリスクと戦う医療者の心の声を聞いてほしい

医療従事者にも家族があり、ただの人間です。安定的な医療体制を提供するには、色んな人の犠牲の上で成り立っていることを多くの人に知って欲しいです。
医療崩壊していないから良いのではなく、しないように踏ん張っている人間がいるんです。私たちはとても大きなリスクの中で戦っています。ガウンがとか物品の話だけではなく、私たちの心にも目を向けていただけると良いと思います。
心を守るためにモノを拡充するなら良いのですが、ただただモノばかりを補充されても、最前線で働く兵隊に「鉄砲弾持ってきたから死ぬまで働け」というのと同じです。そうなったら、自分はこの仕事を降りたくなるでしょう。医療者の心にはそういう面もあることを、知っていただきたいです。

Profile
イラスト:大道レイチェル(だいどう れいちぇる)

滋賀県出身。立命館大学文学部卒業後、専門学校でデザインとイラストを学ぶ。現在、滋賀県の印刷会社でグラフィックデザイナーとして入職し、個人でもイラストレーター・漫画家として活動中。また、NPOまもるをまもるの理事として、イラストや広報物の作成、グラフィックレコーディングを行なっている。趣味は英語の勉強とスターウォーズと、さんぽ。

【漫画】リアルな医療現場と、そこにあるバイアスモンスターと戦う作品『ソヴァージュ・モンスター』(原作:大浦イッセイ)の作画を担当しました。以下で読めます!

●第1話 Amazon Kindle (無料)

https://www.amazon.co.jp/dp/B07FK1YXG9/ref=cm_sw_r_li_awdb_c_7rYtBbQBMB503

●第2話 (リンク先で直に読めます)

https://share.clip-studio.com/ja-jp/contents/view…


文章

岡部美由紀 (おかべ みゆき)

埼玉県出身。看護専門学校後、大宮赤十字病院(現 さいたま赤十字病院)に入職し、中央手術室に勤務。その後クリニック勤務を経て、なぜかIT技術者へ転身する。出産を機にIT業界に別れを告げ、看護師へ復職(ここでも手術室勤務…)。看護師10年、IT10年を経験し、自分には「何かをつくる」方が向いていると思い立ちライターへ転身、女性ばかりのライティング事業を立ち上げる。2015年から医工連携コーディネーターも兼務。
趣味は、ハンドクラフトとジグソーパズル。再び家族でキャンプに行ける日を待ちわびながら、犬&リクガメ&メダカの世話に追われる2児の母。